税務についてちょっと役立つまめ知識をご紹介します。
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タダほど高いものはない!?

※文章は2000年1月の法律を元に記述されています

I.申告書は専門家にチェックしてもらおう

いよいよ2月16日より、個人所得税の確定申告の受付が開始されます。個人事業者にとっては、一年でもっとも憂鬱な時期ではないでしょうか。
申告書の作成を税理士に依頼している人は、確定申告をする人全体からみれば一部にすぎません。大半の人は、頭をかかえながら自分で申告書を書いています。税理士に頼むとお金がかかりますし、税理士のなかには、目の玉が飛び出るような税理士会の報酬規程をベ−スに計算した料金を請求してくる、金銭感覚のズレたセンセイがいるため、「税理士は高い」というイメ−ジを持っている個人事業者が決して少数ではないからです。もっとも、大半の税理士は良心的金額でやっているはずですが。
さて、苦労して決算書と申告書を書き上げて、自分では完璧だと自負していても、専門家からみればボロボロのミスだらけ、という例は決して少なくはありません。面倒でも、専門家にチェックしてもらうことをお勧めいたします。えっ? そんなお金を出せないって? 確かに地獄の沙汰も金次第。しかしながら、お金のない人や出したくない人も、足を運ぶ手間さえ惜しまなければ、それなりの方法がないわけではありません。そう、自分で書いた申告書をタダで見てもらえたり、書き方をタダで教えてもらえる場所があるのです。その主なところをリストアップすれば、
  1. 税務署
  2. 市役所(区役所・町村役場)の税務課
  3. 税理士会の行う無料相談会

といったところでしょうか。もちろんこれ以外にもいくつかあるとは思いますが……。なお、上記の他、加入している会員向けの税務相談・申告書作成サ−ビスならば、商工会議所(商工会)、青色申告会、農協、民商などでもやっております。さて、上記のうち、税務署と税理士会の無料相談の実態は……。

II.税務署での相談の限界

税務署は税の専門家のお役所だから、税金のことには一番詳しいし、間違いなどするはずもない、と考えるのが普通の庶民の素朴な感情です。したがって、相談に最も多くの人が訪れるのがこの税務署。申告書の提出もその場でできるので、一石二鳥と考えます。しかしこれは大きな誤解。
まず第一に、税務署員のすべてが、すべての税目を知っているのではない、ということ。税務署は、法人税部門、所得税部門、資産税(相続税・贈与税・譲渡所得税のことを資産税と呼ぶ)部門、間税部門、徴収部門など職種別の部門に分かれており、2〜3年ごとに税務署間の人事異動(転勤)はあるものの、職種別部門間の人事異動はほとんどないのです。したがって、個々の税務署員は、自分の専門外の税目に触れる機会はほとんどありません。税務署に30年いて、あちこちの税務署を渡り歩いていても、例えば法人税部門の人であれば、どこの税務署に行っても法人税部門しか経験させてもらえないわけ。つまり、所得税は専門外なので詳しいことは知らない、という税務署員はきわめて多く、また、所得税部門の人でも譲渡所得税は専門外、となってしまうのです。
また、個々の税務署員の知識水準にも、相当の開きがあります。勉強好きな税務署員もいるでしょうが、そうでない人も大勢います。ベテランもいれば新米もいます。ちょっと専門的な税務の問題を複数の税務署に電話で質問したところ、税務署ごとに全部回答が違ってしまった、ということも決して珍しくはないのです。
税務署で相談したら間違ったことを教えられた、という例も少なくありません。二世帯住宅で生計を別にする父に払った店舗家賃をダメと言われたり、傷んだアパ−トの原状回復への修繕費を、経費処理ではなく資産計上しろと言われたり、事業用のみしか使用していない乗用車の減価償却費の事業供用割合を50%と言われたり、個人事業者が従業員の大半を連れていった慰安旅行をあかんと言われたり、同業者と行ったゴルフをダメと言われたり……。
第二に、税務署の本来の仕事は税金を取ることで、国民の税金を安くすることではない、ということです。税務調査で脱税を見つけるのが本来の仕事で、税務申告書の書き間違いを見つけることではありません。税務署員にとって、何の手柄にも出世にもつながらない相談業務に力が入らないのは、むしろ当たり前です。
また、脱税を見つけるのに、詳しい税法の知識は必ずしも必要ありません。売上の隠蔽や架空経費を発見するのに、税法の知識などいらないのです。したがって、税法の知識を駆使して納税者に有利なアドバイスを、などと期待する方がおかしいのです。
第三に、確定申告時期に次々と相談に来る大勢の人一人一人に、丁寧に対応する時間的余裕がない、ということです。したがって、申告書の表面上のチェックはしても、ここをこうやれば税金を安くできる、などというアドバイスはまず期待できません。
また、納税者が間違えて税金を少なく申告した場合、税務署員がそれに気付けば親切に指摘してくれますが、逆に税金を多く申告してしまった場合、なぜか不思議と気付いてくれないものなのです。老年者控除とか寡婦控除の失念をそのまま見落としたり、自宅兼事務所の減価償却費按分計上失念をそのまま見落としたり、ひどいのになると、単純な足し算ミスで過大申告になっていたり……。
しかし、それでも相談しないよりははるかにマシ。素人が自分で作成した申告書は、初歩的ミス、というよりも、常識では想像できないミスが起きることがあり、そうしたすぐに気付くミスは直してもらえるからです。
もしもあなたが税務署に相談に行くつもりならば、こうしたメリット・デメリットを承知の上、税務署で相談した場合の税負担額と、専門家に依頼した場合の手数料負担額とを比較衡量して、いずれか有利な方を選択すべきでしょう。

III.税理士会の無料相談の実態

毎年1月末に税務署から納税者宛てに送られてくる、所得税の申告書を入れた封筒の裏面には、税理士会が主催する確定申告無料相談会の案内がでています。(日程と時間および場所は、申告書の封筒を確認してください。)
この無料相談会は、形式上は各地税理士会支部の主催となっています。しかしその費用は国費から支弁されます。したがって実態は、税務当局が税理士会に依頼して開催してもらっているようなもの。税理士会の性格上、おカミからの依頼は断れません。派遣される税理士は、税理士会支部の税務援助対策部が、高齢者を除く支部会員に、一人当たり1日か2日、なかば強制的に割り当てます。強制といっても、税理士法等の法律で強制できるものでもなければ罰則のあるものでもないため、割り当てられても出てこない会員もおり、役員の苦労は容易なものではないようです。
出席した税理士には、一人一日当たり17,000円強の税務援助報酬が支払われます。日当17,000円ならばうらやましい、と考える人もいるかも知れません。しかしながら、開業税理士は通常自分の日当を4万〜6万円位で考えています。税理士会報酬規程の税務調査立会い日当も、一日当り6万円以内です。事務所の維持費や従業員の給与を考えれば、その位もらわなければ割に合わないのです。従業員の給与と比較しても安い額です。従業員の年間就労日数は、土日の休みが年間104日、祭日の休みが11日、年末年始と夏期休暇が10日、年次有給休暇が20日とすれば、年間220日。年収600万円の従業員の給与を日当換算すれば、27,000円余になるのですから。
それだけではありません。2月と3月の確定申告時期は、税理士事務所にとって一年で最繁忙期。休日などむろんない月月火水木金金、毎日寝る時間も惜しいほどで、紹介のない飛込み客は断る事務所もあるほどです。こんな時期に17,000円で動員させられてはたまったものではありません。
もうひとつ。開業して数人以上の従業員を使用している税理士であれば、特殊なものを除き通常の申告書作成業務は従業員にまかせており、税理士本人の仕事はそのチェックと顧客からの相談の対応、コンサルタント、調査立会いなど。税理士本人が申告書作成に従事することは多くはありません。また、申告書作成業務はコンピュ−タ−を利用するのが一般的で、時間もかかり計算ミスも起きかねない手書き作成はあまり行いません。つまり、無料相談会の動員は、税理士に日常業務と異なったことを安くやらせているわけ。これでは意欲も起きません。
実際、多くの税理士の間では、この無料相談会動員の評判はすこぶる悪いのが実状。支部役員や支部仲間への義理からいやいや出てきている人がほとんど。しかも、相談には大勢の人が押しかけますから、一人一人に丁寧に応対している時間的余裕もありません。納税者が自分で作成した申告書に、ミスがあれば訂正するものの、ミスではないがこうやれば有利、という指導までする暇がないのです。
こんな無料相談会ですが、頭の良い利用法をいくつか。まず、すいている日にちと会場を選びます。各会場とも、初日と最終日、月曜日は混むため避けます。また、3月は混雑するため、2月のできるだけ早い時期に行きます。できれば、雨天の日を選んで行きます。来場者が少なく、丁寧な応対をしてもらえる可能性があるためです。会場は、なるべく交通の便の悪い、電車の駅からは歩いていけないような会場を選びます。申告書は、かならず自分で下書きをして、チェックだけしてもらえばいいようにしていきます。相談する税理士は、受付で指定され選べないことが一般的ですが、もしも会場ががら空きで税理士を選べるならば、年配者は避け、30代位の若手を選びます。
もしも会場が混んでおり、一丁上り式の応対をされたとしても、無料であることを考え、あきらめるしかありません。タダほど高いものはない、ということわざもあるのですから。それでも、税務署よりはマシと私は思います。税理士業は客商売ですから。税務署と税理士会の両方に行って、比べてみても面白いと思います。

IV.無料相談が変わった

一昨年(H10年)までは、無料相談会で申告書の下書きまでやってもらえたものでした。しかし、昨年(H11年)から、自書申告の推進を旗印に、税務署、税理士会のいずれも、申告書の作成や検算・計算は行わず、納税者の不明点や質問事項の相談・指導のみを行うように変更されました。とはいうものの、昨年はまだかなり融通をきかせていたようですが、今年はこの自書申告書作成方式がもっと徹底されます。相談員(税理士や税務署員)一人が納税者一人と応対する個別相談はごく一部に縮少され、原則として、相談員一人が複数(4人以内)の納税者に同時に対応し、指導・相談のみしか行わなくなり、下書きはやってもらえません。サ−ビスの低下ではありますが、時間の制約を考え、効率化を図ったのでしょう。
こうなれば、税理士にお金を払うことのできない人は、商工会議所主催の無料相談を利用するのが賢明でしょう。商工会議所の相談会は定員制のため、税理士側も比較的落ち着いて指導できるからです。ここでは申告書の下書きもやってはくれますが、やはり自分で作成したものを持っていき、チェックだけで済むようにしていただきたいのです。その方が、アドバイスも受ける時間ができるため、結局は有利と思います。

バックナンバー
001)年末調整あれこれ
002)同一生計親族への支払い
003)タダより高いものはない!?
004)確定申告最終チェック
005)所得税申告書の提出でドジを踏んだ場合
006)税理士をタダで利用する方法
007)税理士のいない会社のための、税務調査対応法1
008)税理士のいない会社のための、税務調査対応法2
009)税理士のいない会社のための、税務調査対応法3
010)税理士のいない会社のための、税務調査対応法4
011)税理士のいない会社のための、税務調査対応法5
012)確定申告のチェックポイント
013)2001(H13)年度税法改定のあらまし
014)税理士法改正の裏側
015)従業員の福利厚生費1
016)従業員の福利厚生費2
017)小額訴訟のすすめ
018)天下り年収2億の怪
019)株式投資における新税制
020)ストックオプション裁判の判決
021)2003(H15)年税法改定案の読み方1
022)2003(H15)年税法改定案の読み方2
023)資本金1円会社の損と得